一文無しの一日 〜「みなとX’mas Jazz Concert」(in 六本木)〜


(昨日の続き)


そう、巣鴨を後にして地下鉄に乗って六本木に向かう途中。お茶を買おうとして愕然としたのだ。



財布がない。



落としたのではない。持ってくるのを忘れたのだ。置いてある場所も明確にわかる。



障害者手帳にはさんであるパスモは前日チャージしてあったので移動に問題はない。



さて、どうしよう。一文無しである。キャッシュカードもクレジットカードも忘れてきた。



ここで、ひとつの考えが僕の心の中で頭をもたげた。昔から憧れのシチュエーションだ。




人にはそれぞれの憧れのシチュエーションかある。


小学生のころの僕の憧れのシチュエーションは、転校する僕のためにクラスの皆がお別れ会を開いてくれて涙涙で別れると言う場面だった。残念ながら僕は極めて引越しの可能性の低い環境にあったので、転校する機会はついに訪れなかった。


「転向」のチャンスは数限りなくありそのつど行使してきたけどね。




10代のころの憧れのシチュエーションは、数日前も書いたけど半村良の影響で「苦労人のバーテンダー」。


雨やどり (集英社文庫)

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昼下がりの歓楽街。自転車に乗って買い出しに出かける僕に店々から声がかかる(あ、すでに妄想ね) 。


「○○ちゃん(僕のこと)、買い物ぉ?」


夜にはクレオパトラのように妖艶な△△ママがジャージ姿で掃除をしている。陽光の元で見る化粧っ気のないママは二回りも老けて見える。


「ついでになにか買って来(「き」。ここもポイント)ようか?」



「うん。じゃ、ナスときゅうりを二、三本お願い」



「ナスときゅうり?お盆じゃあるまいし、ご先祖でも迎えるのかい?」



こんなやりとり。バーテンダーにも苦労人にもなれなかったのでいまだに実現されていない。



20代のころの憧れのシチュエーションは、ガールフレンドへのクリスマスプレゼントに鴨沢祐仁の「クシーくん」を贈ること。


クシー君の発明

クシー君の発明


30代のころの憧れのシチュエーションは、昼間の蕎麦屋。ざる蕎麦をつまみに熱燗を飲むこと。これは試してみたが、僕は日本酒が苦手で、しかも行動が鈍化する飲酒を昼間に行うことは性格的に苦痛だったので二度としなかった。24時間365日行動が鈍化した現在から考えるとまるで他所の人みたい。



40代からの憧れのシチュエーション、それは。都会で働く息子のもとに尾羽打ち枯らした老残の父が現れ金の無心をする場面。



そういうわけで、都内に出てきて六本木に向かう途中で一文無しであることに気がついたのである。



カード類も持っていないことは前述の通り。


ここで憧れのシチュエーション発動か。ここから長男・虎太郎(仮名・24歳)の職場までは指呼の間である。なるべくやつれた風情で金の無心に行こうか、勤め先の裏口に立って。


と、本気で思いかけたのだけど、「やつれた風情」と言っても朝会ったばかりだし、彼の職場には裏口はない。らしきものはあるけど非常階段で8階までは歩けない。なのではあるけどそれよりなにより彼は親に似ず堅実で、「無駄遣いの元凶」と不要な現金を持ち歩かない。いい年をして財布に300円しか入ってないこともある。これは「行くだけ無駄」と考え、憧れのシチュエーションは彼の宗旨替えまで待つことにした。




そして結局、一文無しなら一文無しでいいや、とそのまま六本木に行くことにした。



目的は六本木の某ホールで開催の「みなとX’mas Jazz Concert」。




嵐山光三郎氏の肝煎りのイベントで、主催は立川企画の松岡社長(故・家元の弟)。出演は中村誠一さんを中心とするユニット。



↑↑ よりによつてこの動画かい ↑↑


開演は6時半だけど4時半に開場入り。パンフレットに当廊での「ピッキーとポッキー展」のチラシを挟み込んでいただく約束をしていたのだ。松岡社長に挨拶したあとスタッフのTさんにチラシを託す。


奥で観客誘導の打ち合わせの指揮を執る青年が妙にいい声で、小声で話しているのに実によく通る。っと思ったら立川志獅丸さんだった。


隅のベンチで嵐山先生、マネジャーのNさん、と3人で座り「ピッキーとポッキー展」の打ち合わせ。なんかスゴいことになりそう。大丈夫か、おれ。


開場時間まで楽屋のソファーでのんびり。嵐山先生と中村誠一さんの軽口のジャム・セッションをうっとりと聴く。ピアノの吉岡秀晃さんとも久しぶり。



国立駅北口に住んでおられるころは駅で偶然会ったりしたが。ヴォーカルで誠一さんの娘のSARIちゃん。最初会ったときはまだ19歳の大学生だったが、もうすっかりレディの風格。


ザ・スウィーテスト・サウンズ / The Sweetest Sounds

ザ・スウィーテスト・サウンズ / The Sweetest Sounds


開演は18時半。前半はニューオリンズスタイルバンド「ストンパーズ」のステージ。これは超ベテランの誠一さんと20代の若手のユニットで、スタンダードナンバーを中心にクリスマスソングも交えて。SARIちゃんと相方・YUKAちゃんのデュオ・チャイチーシスターズが花を添える。それも特大の花を。


休憩を挟んだ第2部は、誠一さんと吉岡さんと、ギターの井上智さんのトリオ演奏。



スタンダード中心ながら自由自在、変幻自在のアレンジで、最高にファンキーなステージだった。


会場ではいろんな方々と再会。僕自身が病後、夜の外出が減ったので。イラストレーターの田村セツコさん。ご自身のファッション本も評判。青山で現在、個展中。あいかわらず明るく、キュート。


近所に住んでいる割には全然会わない作家の亀和田武さんとも数年ぶり。最新著『夢で逢えたら』が評判。数ヶ月前、書評のメルマガでご紹介した


土佐長宗我部氏の直流・「トノ」ことプランナーの長宗我部友親さん。


長宗我部 (文春文庫)

長宗我部 (文春文庫)


三年前の秋。倒れた翌日の朝。さらに翌日のトノと嵐山氏のトークショーを予約していた僕は妙な律儀さで、8割霞のかかった意識の中でツレにキャンセルの電話を入れることを託した。そこから嵐山氏に「蕃茄倒れる」の連絡網が流れたのだった。マスオさんがすぐに見舞いに来てくれ、そのまま退院までいろいろお世話になった。



終演後、二次会は近所のお洒落なイタリアンでなんてことはあえてしないのがこの一座のかっこいいところ。「甘太郎六本木店」で。隣の席は上のパンフレットのデザインをした南伸坊さん。今年も「俳画カレンダー」お世話になりました。

ねこはい

ねこはい


反対隣は「世界の車窓から」制作・テレコムスタッフの岡部社長。


その奥は随筆家の坂崎重盛さん。杖のコレクターとしても知られる。今度、杖についてじっくり語り合いましょう。


粋人粋筆探訪

粋人粋筆探訪


そして甘太郎宴会場で突然のジャムセッション。さすがにピアノ、コントラバスにないけど、クラリネット、ギター2本、トロンボーン、ツインヴォーカル。その場に居合わせた僥倖をかみ締めた。



誠一さんの三本締めで閉会。嵐山氏がタクシーに便乗させてくださるという。


雨の週末でなかなかタクシーが捕まらない。しかも「割増」の表示。11時前なのに何故? と思って時計を見たらとうに11時を過ぎていた。同乗は釣りライターの樋口タコの介さん。国立に帰ったらイルミネーションはとうに消えていた。



こうして一文無しの一日は終わった。



コンサートチケット、二次会会費をどうしたかを心配される向きもあろう。



大丈夫。立て替えていただいた。上に書いた方の中のお一人に。どなたかは内緒。


今後は、障害者手帳、名刺入れにそれぞれ小さく折った一万円札を入れるようにしようかな。


多分しないな。PCデータのバックアップすらとれないのに。


あ、携帯電話のバッテリーのふたの裏側に八つ折にした一万円札が入るポケットがあったらいいなぁ。いくらデジタル全盛の世の中でやっぱり一番頼りになるのは現金だよ。



へろへろで玄関を開ける。財布は記憶どおりの場所に安置されていた。



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