池袋で花開く実直な精神

作家で、元・教育課程審議会会長の三浦朱門先生は、かつて次のように語った。

「できない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえればいいんです」(斎藤貴男著『機会不平等』文藝春秋より)
 三浦氏が言いたいことはつまり「ボンクラは余計なことを考えずに汗を流して勤勉に働け」ということなのだろう(うーん、そうなのかもしれないけど、なんだかなぁ・・・)。


 元・文化庁長官に刀を返すようだが、僕は別なことを考えている。

「できない非才、無才には、せめて洒脱な精神だけを養っておいてもらえればいいんです」

 つまり、「人生はつらい。だからせめて洒落のわかる人になろうよ」ってこと。洒落さえわかれば (それと、できればほんの少しの発想の転換があれば)、大抵のことは乗り切れる。



 そうと決まれば(?)即行動。僕と長男・虎太郎(仮名・中2)のボンクラ親子は池袋演芸場に向かった。

 僕の知っている池袋演芸場は畳敷きでいつもガラガラだったけど、今の池袋演芸場瀟洒なビルの地下二階。椅子でゆったりと聞ける。
 新装10周年記念興行だそうだ。ということは10年以上行ってなかったことになる。

 いやあ面白かったなぁ。メジャーどこでは「おかあさんといっしょ」の志ん輔さんや無頼漢・馬風、元祖ツッパリ落語のしん平等々。
 太神楽の翁家和楽社中など見ると「お染ブラザース」が特異な天才なのではなく、脈々と受け継がれてきた伝統的な芸であることがよくわかる。
 歌司さんが「親子酒」を演じ終わったとき虎太郎が小声で「これ、去年聞いた」と言った。寄席に連れてった覚えはないし、冬に行った「柳昇・昇太親子会」でもこのネタはなかったはずだが。
 「去年社会科見学のコースの中に浅草演芸場があったんだよ」
 ほほうそれはいいね、まさしく社会科見学だ。いい先生がいるなあ。いいぞ、公教育!

 トリは円歌師匠。相変わらずの感じの悪い毒舌で場内を沸かせていた。

  ホール落語も良いけど、僕はやっぱり寄席のほうが良いや。何が良いかっていうとやっぱりユルいところだな。
 独演会などと違って芸人さんもリラックスしてるの。なかにはテキトーに流している人もいる。だからこちらもテキトーにリラックスして聞ける。やだよ「真剣勝負」なんてしたかないよ。
 お客も良いんだよね、「通」があんまりいないから。ベタなクスグリに素直にコロコロと笑えるお客さんがいると場内はホンワカする。

 
 ああ、面白かった。これでまたしばらくの間、実直に、勤勉に、働くことができそうだ。