立川志らく in 新春くにたち寄席

恒例の「新春くにたち寄席」に行って来た。会場はくにたち市民芸術小ホール。

  出演は立川志らく柳家一琴、古今亭菊乃丞、江戸家まねき猫東京ボーイズの面々。メインは当然、志らく師匠だ。

  僕が志らくさんの落語を聞きに行くときは人形師の石塚公昭さんと行くことが多い。
 

  でも、東京・下町にお住まいの石塚さんを西郊の果てまで呼び出すには忍びない。今回はツマと長男・虎太郎(仮名・中二)と3人で行った。

  前も書いたが僕の主義として「非才ならばせめて洒脱な精神を」がある。つらい人生も、洒落がわかれば大抵乗り越えられる。そんなわけで虎太郎には落語に触れさせたいと思っているのだ。

  
  そういえば去年もこの催しに来た。去年も虎太郎は場内最年少だったが今年もそのようだった。去年は春風亭柳昇・昇太親子会だった。柳昇師匠がげっそりとやつれていたのに衝撃を受けた。術後復帰の初舞台だったが、その翌月、泉下の人となったのだった。

 閑話休題

   例によってせっかちな僕は開場時間の30分以上前に芸小ホール前についてしまい、のども渇いたのでお茶でも買おうと向かいのコンビニに向かった。

   僕の前にコンビニに入った男性がいた。後姿から見るに、体型的には僕とほぼ同じ。髪型も同じ。茶色いセーターに同系色のコーデュロイ・パンツ。一見、団地のお父さんの休日なんだけど、何かがちょっと違う。何が違うんだろうなぁと、弁当を買うその人の顔を見ると、本日出演の柳家一琴師匠だった。やっぱり芸人さんはわれわれ素人とはなにか雰囲気というか、何かがちょっと違うんだな(その話を後でツマにしたら、「あら、主催者がお弁当出さないの?」と怪訝な顔をしていた。にわか興行師は言うことが厳しい)。

また閑話休題

  ツマや虎太郎とは客席で待ち合わせ。偶然にも僕の後ろは石彫家の関敏先生ご夫妻だった。

   前座は、立川らく八さんで「子ほめ」。暗記するほど聞いた話でも聞くたびに腹を抱えて笑ってしまう。古典の凄さだ。

   続いてさっきお弁当を買っていた柳家一琴さんの登場。「あらぁイイお顔だわ」とツマ。確かに、見るからに明るく陽気な雰囲気がいい。演目は「勘定板」。テレビではまず聞かれない。
   なぜかというとウ○コの話だからだ。でもサラリと粋に演じていて下品に落ちない。排便のことを「カンジョウ」という地方から来た田舎出のお客と宿屋の番頭との勘違いが眼目。「カンジョウしたい」と腹を押さえる客にスッと算盤を出す番頭。二人とも好意的でイイ人なのがまた面白い。そのいい人同士が理解し合おうと苦労しその結果は最悪の悲劇・・。場内は爆笑だった。

   次はテレビの「鬼平」の五鉄の店の小女でお馴染みの江戸家まねき猫さん。亡くなった江戸家猫八さんのお弟子さんで娘さんだ。出し物はもちろん動物の鳴きまね。でもちょっと趣向を変えて「鳴き声入り 枕草子」。枕草子の暗誦に動物の鳴き声をプラスして季節感を演出したものだ。とっても品のいい芸でなおかつ可愛らしいお色気もあり感心した。なんとなく「俳味」もあってよかったな。

   中トリは古今亭菊乃丞さんで「愛宕山」。米朝師匠のレコードで何度聞いたことか。なかなかの大ネタだ。この菊乃丞さん、名前のとおりお役者のような美男。幇間の一八などもなかなか色気があっていい。声もいいし歌もいい。この落語のクライマックスの土器(かわらけ)投げ。これがやりたくて、僕は琵琶湖の竹生島に渡ったこともある。

   中入り後は東京ボーイズ。お正月の寄席特番で何度も見た「なぞかけ問答」を生で見られるかと思ったら、今日のネタは「新撰組」。この十年一日のごとき芸風がたまらない。これからもこのまま長くがんばって欲しい。

   さて、いよいよ志らく師匠の登場だ。

   マクラは相変わらず切れ味のいい時事ネタ。毎度ながらこのジャーナリスティックな感覚に恐れ入る。テレビじゃ絶対にできない過激ネタで場内を爆笑に引きずり込む。

   演目は「姥捨て山」。

   実はこの「くにたち寄席」は例年、平均年齢が高い。さっきも書いたように、去年などは見たところ、虎太郎が最年少でその次が僕だった。今年は志らくさんなので若い人も少しはいるが、それでもやっぱりお年寄りが多い。その中での「姥捨て山」。ぼくのほうが結構ドキドキしてしまった。途中結構過激なブラックユーモアもある。大丈夫かなぁ。

   それでもさすがは志らく師匠、ブラックをブラックのままにしないでカラっと陽気にスピーディーに料理して、当のお年寄りたちにも大ウケだった。小心者の僕などはハラハラしっぱなしだったが、当然、勝算があったのだろう。すごいなぁ、やっぱり。

   約2時間笑いっぱなしで、ちょっと頭が痛くなってしまったぐらい。でもやっぱり落語はいいなあ。また池袋演芸場でも行きたいな。