いしかわじゅん『いしかわ式』

これはまた強烈に面白い本が出たものだ。いしかわじゅんさんの最新エッセイ集『いしかわ式』である。漫画家でありエッセイストであり小説家である、いしかわさんの最新刊で、今月の18日に発売になったばかり。

 数あるいしかわエッセイの中でも、これは2番目に面白い本だと思う(一番が何かについてはまだ言えないのであるが・・・・)。

 出版元はアスキー。コンピュータ専門出版社だ。この本も「週刊アスキー」の連載エッセイをまとめたものだ。でもコンピュータの話だけでなく、うどんの話も出れば台湾旅行の話も出てくるというかなりクロスオーバーなスタイルのエッセイだ。コンピュータの話題を入口にして、「いしかわ式」ライフスタイルを開陳しているといってもいいかもしれない。

 柱となるのが、いしかわさんが担当編集者を連れて何か珍しいものを見に行ったそのレポートだ。担当編集者が格好のサカナというかネタになる。いしかわさんの担当を任されるのだからかなり優秀な人であるのは間違いないのだが、いしかわさんの筆によって戯画化されて「オチ」を担当することになる。百鬼園先生とヒマラヤ山系君を髣髴とさせる珍道中ぶりも爆笑ものだ。

 3ページに1点の割合で小さいイラストか4コママンガが入るとは言え、2段組み354ページはなかなかのボリュームである。でも途中でやめられずに一気に読んでしまった。

日下潤一の造本も美しい。デザインだけでなく手にもった感じや開いた感じもすごくイイ。とてもよく手になじむ。下の書影では横長になっているが横判の本ではない。ふつうのいわゆる46判の本だ。表紙だけ横向きにデザインされているのだ。もし手に取る機会があったらカバーの下も見てみよう。草色の紙にフランス風のタッチで描かれた、いしかわさんの肖像イラストがメチャかっこいい。

 いしかわさんといえば近年では某旅行社との裁判闘争を克明にリポートした『鉄槌』が有名だが、この『いしかわ式』でも後半で「プチ鉄槌」がある。「そうそう、そうですよねぇ」と読んでいて溜飲が下がるのだけど、ネタバレになるので詳しくは言わない。



 僕の「いしかわ歴」は結構古い(ちょっと自慢)。1979年だったと思う。

 上村一夫の表紙に惹かれて買ってみた「ヤングコミック」という雑誌に載っていた「蘭丸ロック」という作品だった。

「な、なんて下品なんだ・・・・」

とすっかり魅了されてしまい、次の号からはまず「蘭丸ロック」から開くようになった。主人公の蘭丸が通い詰める喫茶店のモデルが、僕の家からも近所の店と特定できてからはますます身近に感じられるようになった(「ぼんやり洞」でモデルは「ほんやら洞。僕が所属する「ほんやらなまず句会」もこの店に由来する)。

 そして『憂国』。いつも単行本をカバンに入れていた。あるときサークルの部室においておいたら誰かが持っていってしまった。しばらくして大学の卒業アルバムが作られたのだけど、そのアルバムの「この4年間の主なマンガ作品」のページに他のジャンプ系、マガジン系のマンガに混ざって『憂国』の一コマが転載されていた。瀕死のいしかわが「金沢明子って・・・」と膝を折るシーン。

 アルバム編集委員が犯人だったのだな、僕の大事な本を持っていった(ついで無断掲載もね)。

 その後何年も経って、まあご縁があってお仕事場にお邪魔できるような知遇を得ることができた。あるエッセイ集では何ヵ所かに僕が登場している。最初に書いた一番面白い本というのはそれである。何であるかはちょっと内緒である。

 書店において文芸書の棚に置かれるのか、サブカル棚に置かれるのか、パソコン書の棚に置かれるのかが微妙で、ちょっと探しにくいかもしれないけど、面白さは保証つき。お勧めの一冊だ。ぜひ探し出して読んでみていただきたい。

いしかわじゅん『いしかわ式』(アスキー・1,700円)

いしかわ式