「女が語る星月夜」

今日は国立演芸場に「女が語る星月夜」に行ってきた。
「語り物」の女流芸人さんが一堂に会してのリサイタルだ。テーマは「七夕」・・・。

って、すみません。昨日の日記の末尾で「続きはまた明日(多分、最終回)って書いたけど撤回。今日は今日のこと、「女が語る星月夜」について書かせていただきます。「FM国立」については、明日か明後日書かせていただきます。もしかすると2回ぐらいに分かれるかもしれないけど。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

  さて、「女が語る星月夜」である。

  出演は、川柳つくし(落語)、神田紅(講談)、竹本越孝・鶴澤寛也(義太夫)、桂右團治(落語)、平野啓子(朗読)+望月美沙輔(篠笛)、というメンバー。一流のメンバーがそれぞれが七夕、または「星」「月」「夜」をテーマにそれぞれの芸をたっぷり聞かせてくれるというイベントだ。

  まあ、うるさいことを一言言わせてもらえば「星月夜」は秋の季語。まだ7月にはいったばかりなのでちょっと違和感があるかなあ。あっ、でも七夕も秋の季語だからいいのかな。このへんが旧暦の扱いの難しいところだ。

  なぜ、僕がこの会に行ったかというと、出演者のひとり、義太夫三味線の鶴澤寛也師匠のお誘いを受けたからだ。


  寛也師匠についてはこの日記にもたびたび登場しているのでもうすっかりお馴染みだと思うが、新しい読者様のためにちょっと説明しよう。
  
  まずその前に、女流義太夫をご存知だろうか?

  明治〜大正にかけてはそれこそ大変な人気だった。当時は「娘義太夫」といって今で言うアイドルのような熱狂振りだったそうだ。「どうする連」なんてのがいてね、今で言う「追っかけ」。人気の太夫の舞台を追いかけては、「どうするどうする」なんて身悶えしていたらしい。

  それから100年近く経った現在も、その芸能は連綿と継承されている。興行の形こそ変わり「どうする連」もいなくなったが、根強いファンを持ち、月に一度の国立演芸場での定期公演もつねにほぼ満席だ。

  今を去ること20年前、数学者への道を投げ打って、まったく畑違いの義太夫三味線の世界に飛び込んだ一人の女性がいた。以来、努力と苦労を積み重ねて、斯界に確固たる地位を築きつつある。

  それが現在の鶴澤寛也師匠である。キャラが立っているのでついネタにしてしまい、この「蕃茄庵日録」にもたびたび登場する。僕の20数年来の悪友だ。ほんとは僕のほうが一年先輩なのだけど先輩らしい扱いはただの一度も受けたことはない。いや、別に文句を言っているわけだけど。


  同行、というか現地待ち合わせは坂崎重盛さんと石塚公昭さんだ。

  坂崎重盛さんは人気エッセイスト。散歩ブームの火付け人である。現在、朝日新聞(東京では水曜日夕刊)に連載している「TOKYO・老舗・古町・散歩」が大好評でひっぱりだこの超売れっ子だ。


  一方の石塚さんは人形作家で写真家。文士やジャズマンの人形などで知られている。またその撮影も自分で手がけ、明治・大正期に流行り今は絶滅した技法・「オイルプリント」の復活でも注目されている。

  最初は川柳つくしさんの落語で「新竹取物語」。川柳という亭号でわかるとおり、「ジャズ息子」で知られる破滅型落語の雄・川柳川柳師の弟子だ。

  ピンクの着物に濃紺の袴で登場。一見、女子大の卒業式のようだ。このようなかわいらしいお嬢さんがどうしてあの怪人・川柳さんに弟子入りしたのかが最大の謎だ。

  ネタの「新竹取物語」。現代の中学生が主人公と言う珍しい噺で、言ってみれば学園ラブコメ・ファンタジーってところだろうか。NHKの往年の名ドラマシリーズ「少年ドラマシリーズ」(現在は「ドラマ・愛の詩」)の雰囲気だ。つくしさんの雰囲気とあっていて面白かった。

  次は神田紅さんの講談で、「南総里見八犬伝〜八房と伏姫」。本日の座長格でさすがの貫禄だ。舞台に出てきたとたんに客席の心をグイッと鷲づかみにする。クライマックスの芳琉閣の天守閣での犬塚信乃vs犬飼現八の決闘シーンが凄い迫力で、思わず息をのんだ。

  次は美貌の太夫、竹本越孝さんと三味線・鶴澤寛也さんで、義太夫「壷坂観音霊験記」。浪曲でお馴染みのこの演目、義太夫で聴くのは初めてだ。僕のような教養のない人間は、油断するとストーリーからおいてきぼりになってしまったりするのだけど、今日は大丈夫。わかりやすく、面白かった。サバサバと男性的な越孝さんの魅力も十二分に発揮されていた。

  続いて桂右團治さんの落語で「竹の水仙」。こちらは見るからに正統派の古典。甚五郎ものの傑作を江戸前のシャキシャキ、パキパキした歯切れのいい語り口で仕上げてくれた。キリッとした男前でカッコイイ(女性だけど)。

  最後は元・NHKアナウンサーにして元・ミス東京である平野啓子さんが語る「竹取物語」。望月美沙輔さんの篠笛が情緒を添える。

  
  終演後は楽屋口で寛也さんと待ち合わせ銀座のライオンビアホールに飲みに行き、閉店時間まで、荷風、乱歩、下町散歩の話で大いに盛り上がった。