落研青春記  5  驚愕の《教養部合宿》

(11月19日の続き)

そして奥多摩駅に着いた。途中、国立駅で途中下車したくなったが、とにもかくにも奥多摩駅に降り立った。まわりにいるのはハイカーばかりである。スーツを着たやつなど我々以外いやしない。他にネクタイをしているのは駅員だけである。


時刻はちょうどお昼時、みんなで駅近くの大衆食堂に入った。先輩は言った。


「教養部合宿の昼飯は、みんなで揃ってカレーを食って気合を入れる習わしになっているんだ」


一昨日書いたように、先輩の命令は絶対である。僕たち新入部員は口々に「カレーライス」「カレーライス」と注文した。辛いものが苦手なS君も我慢してカレーを注文した。先輩たちも当然、カレーを注文する、と思いきや、「きつねうどん」「ラーメン」「とんかつ定食」とバラバラ。


えっ、なんで? と思ったけど、カレーは好きだし、まあいいやと思った。まあ普通に美味しくいただいた。


そして今日の宿である。この時点でも奥多摩にシティホテルがあると思っているおめでたいやつはさすがにいなかった。


キャンプ場だった。辛うじてテントではなくバンガロー。


先輩はテキパキと指示を出した。


「俺たち二年は買出しで、一年のうちSとKは水汲み、Tと蕃茄は焚き木拾いな」


そういうわけで、その日の奥多摩キャンプ場ではスーツ姿で川原の井戸に降りて水汲みをし、スーツ姿で焚き木を拾いに山に入る若者の姿を見ることができたのである。


ほどなく先輩たちが買出しから帰ってきた。買い物袋の中から出てきたのは豚肉、ジャガイモ、人参、たまねぎ。ここまでなら「肉じゃが、かも」と無理に思えないこともないが、袋の底から出てきた黄土色を基調とした長方形のパッケージに「ハウス」の文字を確認したときには諦めに似たため息が漏れるのである。ああ、昼も夜もカレーかよ・・・・。


昼よりも大分味の落ちるカレーをみんなで作って食べたあとは、普通の若者たちのキャンプと同じである。キャンプファイアーを囲んで酒を飲み歌を歌ってゲームをして楽しく過ごした。ただ他のグループと違っているのは、こんな山中のキャンプ場なのに、背広を着ていることである。


山の夜は早い。寝る時間となった。布団はキャンプ場の貸布団である。あれ、枕が四つ足りないぞ。一年生の人数分だ。先輩に訊いてみた。


「枕、ないんすけど・・・」


ニヤリと笑った先輩から帰ってきた答えは、


「枕はお前ら、持ってきているだろう?」


かくして僕たちは、奥多摩山中のバンガローでスーツを着たまませんべい布団に包まり、「新英和中辞典」を枕に浅い眠りにつくのでありました。