美山の里で紅葉狩り〔4〕紅葉乱舞

《11月28日の旅日記から》

Kさんの奥さんに「さ、どうぞ」と言われたのでお宅の玄関の方に行こうとすると、

「あ、こちらです」と奥さん。連れられて工場に入る。


Kさんは「猟師」だが本業は別にある。自営で工場を経営しておられるのだ。その工場に招き入れられた。


「こんなの家の台所じゃ出来ないもの。いつも工場なのよ」


WHAT? 


工場に入ると、

「おお、遠いところよく来たのぉ!!」

と歓待してくれるKさん。そしてお兄さん。仮にNさんとしておこう(にいさん、だから)。


「そこは寒いから、こっち来て座れ座れ」

とストーブの前の椅子を勧めてくれる。


工場の中央には大きなテーブルが設えてあって、鍋と鉄板の載ったガスコンロが2台。鍋はもう煮えていて、いい匂いがしている。並べられた皿には肉やら野菜やらがいろいろ乗っている。


「蕃ちゃんが来るちゅうでなぁ。山に罠、仕掛けとったんやが、猪には逃げられてしまってのぉ。でも、いい鹿が獲れたでぇ」


あ、これ鹿の肉なんですか?


「そうですよ。このくらいだったら二人で20分くらいで捌いちゃうわよね」

と奥さん。この工場で捌くんですか?

「それはそうですよ、こんなの家の台所じゃ出来ないもの。猟の後の食事はいつも工場なのよ」


「まずは飲め飲め」とビールを注いでくれるNさん。「一杯目だけな。あとは手酌でやってな」


やがて母屋から子どもたちもやってきた。

Kさん宅は家族構成が我が家とほぼ同じ。子どもの年齢もほぼ同じ。うちの虎太郎と同年のご長男は大阪で武者修行中。高校生のお姉ちゃんと中学生の弟くんが食卓に加わる。

二人とも礼儀正しく、なおかつ明るい。けなげに鍋の火の番も務める。部活の話などを楽しく伺う。


料理は「鹿づくし」である。 

〔1〕紅葉鍋 すき焼きである。
これは普通のすき焼きと同じ。割り下でつくり、溶き卵でいただく。野菜がよく合う。

〔2〕刺身
ニンニク醤油でいただく。

〔3〕レバー刺
これが絶品。捌きたてでないと食べられない「猟師料理」。塩を入れたごま油にチョイとつけていただく。プリプリの歯ごたえと食感がたまらない。

〔4〕焼肉
セミ」が美味しい。「背の身」のやわらかいところを鉄板で焼く

〔5〕焼肉−2
鹿の「心臓」の焼肉。至高の味。一頭でほんのわずかしか採れない幻の味。ようやく人数分に切り分けた。

「あ!」 Nさんが声を上げた。「ワシの分がないで!! 誰や2切れ食うたんは?」

 すんません、僕です。つい美味しいんで食べちゃいました。

「なんや、蕃ちゃんかいな」と大笑い。


どれもこれもとてつもなく美味しい。野生動物だから臭みがあるかと思いきや全然ない。

「そりゃあな、丁寧に血抜きをしたもんなぁ」とNさんとKさん。

この猟師の兄弟二人によるジビエ料理だが、惚れ惚れするほど手際がいい。大いに食べ、大いに飲み、大いに大いに語りながらも時々スッと席を立ち、野菜をザクザクッと刻み、鉄板に油を引き、火の加減をする。

手早く豪快に。これ、男の料理の妙味なり。


そういえば、鍋は普通のすき焼き鍋だけど、鉄板がちょっと変っている。マンガの吹き出しのような形をしているのだ。


この鉄板ちょっと珍しいですね。

「ワシ、作ったんですわ」

と頭を掻くKさん。鉄板をテキトーに切ってつくったという。なるほど、ここは工場なので鉄板も工作機械もいくらでもあるのだ。

「取っ手をつけたんはワシやけどな」とNさん。


いつまでも終わって欲しくない夜だった。


NさんとKさんの「心づくし」の「鹿づくし」。


僕はこの「鹿づくし」を、ひそかに「紅葉乱舞」と名づけた。

〔続く〕


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