新橋演舞場 三月大歌舞伎

昨日のこと。お気に入りの眼鏡が見つからぬまま行ったのは新橋演舞場。ひょんなことからチケットが手に入った三月大歌舞伎夜の部へ。


JRと地下鉄を乗り継いで東銀座へ。僕にとっては大冒険だが、問題なく行かれた。


劇場前で映画監督の石川淳志さんと待ち合わせ。最近作「へんりっく」のトレーラーを見たまえ。


お弁当と「筋書き(プログラム)」をゴチになってしまった。申し訳ない。


本日の演目は、北條秀司作「源氏物語より“浮舟(うきふね)”」、「水天宮利生深川(筆屋幸兵衛)」、「吉原雀(よしわらすずめ)」。


「浮舟」は吉右衛門丈演じる「匂宮」がサイテーでサイアクで最高。友達のフィアンセに横恋慕して言葉巧みに近づいた挙句にレイプ。結果、彼女は自殺してしまうという救いようの無い話。それが陰惨にならないところが役者の力と歌舞伎マジック。昭和30年代の東宝青春映画のようなさわやかさすら漂う。


吉右衛門丈、あの重厚な鬼平からは想像がつかない若々しく愛嬌のあるプレイボーイぶりで魅了する。また菊之助丈演じる浮舟も単なる悲劇のヒロインに納まらない重層的な造形で匂宮を拒みきれない、さらにはどこかで惹かれてしまうが故の悲劇を体現していた。


「筆屋幸兵衛」は河竹黙阿弥のザンギリもの。一新後の東京の裏長屋を舞台にした人情芝居。ちょっと山本周五郎みたいな話。


「吉原雀」。定式幕が開くと浅葱幕。それを切って落とすと桜が満開の吉原。この絵画的な美しさ、これぞ歌舞伎。もう泣きそう。



この興行、わが中村京蔵さんも出演されている。「浮舟」の「大輔(たいふ)=女官」と、「筆屋幸兵衛」の「長屋の婆お百」。




京蔵さんは大学の先輩。会計ソフト「勘定奉行」のCMキャラクターとしても良く知られている。


    セピアカラーに加工してみました。



↓↓ あのCMを見たこと無い人はないとは思うけど念のため。↓↓



入院中、僕は病室の壁に京蔵さんのサイン入りポートレートをずっとお守りとして貼っていた。



        「吉野山」の「静御前



「娑婆に戻って京蔵さんの芝居をもう一回見るまで死ねるか!!」



と、リハビリの目標の一つとしてきたのだ。



目標がかなった僕にとっては「めでたい」このお芝居、この「筆幸」のお百がよかったー。


貧窮と病気にあえぐ幸兵衛一家を陰日なたに、そして当たり前のように支援している近所の婆ちゃん。テレビでいえば、東京なら赤木春恵野村昭子、大阪なら言えば新屋英子か正司照江のような役どころ。素朴で親切で純情で信心深いおばあさんの人間性、さらには彼女自身も抱える孤独みたいなものまでがビンビンと伝わって、舞台全体を重厚なものとしていた、と思う(もちろん、私見)。



終演後、石川監督と一緒に楽屋口までご挨拶に言った。出番を終えた俳優さんたちが次々と帰っていかれる。みなさんノーネクタイのカジュアルなので、ちょっと工場や倉庫の退勤風景のようなんだけど、それでもどこか華やいでいて興味深かった。


ちょっと遅れて下りてこられた京蔵さんにご挨拶。退院と回復を喜んでくださった。ご心配をおかけしました。


それから東銀座駅まで血圧の話などしながら3人並んで歩き、途中駅まで地下鉄で一緒に帰った。<こしおれ>


めでたさや 友と三月 大歌舞伎