夜、見るともなしテレビでドワイ(土曜ワイド劇場)。渡瀬恒彦主演のタクシードライバーの推理日誌シリーズ。
そしたらびっくり。事件解決の鍵となった「京都の料亭」が知っている店だったのだ。思わず「あっ!!」と声を上げてしまった。
行った事がある。社用ではない。
大学時代のある師走、歌舞伎仲間と行った京都南座の顔見世興行見物の宿がここだったのだ。「料亭」というより当時は「ちゃんこ屋」という感じだった。で、夜は民宿となる。
その歌舞伎仲間とは、当時のことを書くと叱られるから書きたくないのだけど、書かないと話が進まないので書く。
ご想像通り、女流義太夫三味線奏者の鶴澤寛也師匠と仲間たちだ。山ちゃんもいたよね。
このお店というか宿を見つけてきたのも師匠だった。
「ガイドブックでいい宿を見つけたの。<梅川>っていうの。ステキでしょ、梅川忠兵衛みたいで」
南座の芝居見物はそりゃ夢のように楽しかった。客席で「よおっ!!」と声をかけられて振り向くと、
「ワシや! 池田や!」
同じく歌舞伎仲間で大阪の実家のご家族と観劇に来ていたH大の池田さん(先輩。男性)だった。そんな偶然も楽しかったし、終演後に四条通を歩いていたら山ちゃんが知らない女に丸めたカレンダーと思しき紙の筒ですれ違いざま頭をポコンと叩かれて、しばらくしたらその女がまたやってきて山ちゃんの頭をまたポカンと叩いたりして実に愉快だった。
で、件の宿なんだけど。なかなか見つからないんだ。住所を頼りに近くまでたどり着いているはずなんだけど、地元の人に聞いても「知らない」という。ようようのことでたどり着いたら、「梅川」ではなく「梅むら」だった。違うじゃん!!
「あ違うわ、ごめん」
風呂場がないので近所の銭湯券を渡されてびっくりしたりしつつもとりあえず部屋に入って宴会を始めたら、隣の座敷から歌声。
「ひとつ出たホイのヨサホイのホイ。一人娘と‥」
当時は料亭ではなくちゃんこ屋だった。しょうがないので僕が代表して勇気を奮って、手拍子しながら唱和したら女子から顰蹙買ったんだなぁ。そしてクリスマス・イブだったんで不二家のクリスマス・ケーキを持ち込んでそれを肴に熱燗を飲んだら泥酔したら、男子から顰蹙買ったんだ僕が。
でも京都の昼の部に間に合うように早朝に東京を出て、昼の部夜の部をぶっ通しで芝居を見たから皆疲れてて早仕舞いの空気。そんな時、トントンとノックの音。「お客様です」と仲居さん。「え?」と思ったら、
「ワシや! 池田や!」
ご家族を帰して池田さんが遊びに来ちゃったのだ。われわれはもうヘロヘロだが池田さんは元気いっぱい。
「寝るなー。おもろないどー、ワシは!」
結局、池田さんは朝まで帰ってくれずに大騒ぎ。
それはのちのち「京の池田や!騒動」として歌舞伎仲間に語り継がれることとなった。
「梅むら」を見たら、約30年前のそんなこんなな思い出がいろいろとあふれてきた。それを一緒にて見ていた家族に話したら、
「うるさい。筋がわからなくなる」
と顰蹙を買った。30年前も今も、つねに顰蹙を買うなあ俺は。<今日の一句>
想ひ出が 奔流となり 梅のむら
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