無害ですが食べられます

今日の夕食は味噌カツだった。

トンカツは大好物だが、その最初の一口、いつも僕はちょっと慎重になる。

「ガチっとしないかな・・・・・・・」


 僕が子どもの頃、母は基本的にマメな人だった。料理は特に手を抜かない。ダシひとつとってもインスタントのダシのもとを使わないのはもちろんのこと、鰹節もすべて自分で削る。パン粉も残った食パンやパンの耳を干してミキサーにかけて作っていた。

「出来合いのものやインスタントは体に悪いのよ」が口癖だった。

末っ子の僕が大好きなので我が家の食卓によく登っていたメニューがある。それがトンカツだ。

  そんなある時、トンカツにかぶりついたら、コロモがガチッっと硬かった。いやコロモが硬いというより、コロモの中に硬いものがある感じだった。

  そのことを指摘すると母は、

「ウチは出来合いのものは使わないからね。全部手作りだから、モノにばらつきはあるわよ」

と昂然と胸を張った。

  僕はもともとが素直なほうなので、

「そういうものなのか」

 と納得した。

  でも、次もガチっとする。そのまた次もガチっとする。そのまたまた次も。しかも硬度が増しているような気さえした。

  さすがにこれはおかしいと思い、コロモを箸でほぐしてみたら何か光っている。これはパン粉に何か混ざってる。

「おかあさん、パン粉になにか混じってるよ」

すると母は

「そんなことありえないわよ。出来合いのパン粉ならともかく、ウチは全部手作りなんだから」

という。でもさすがに納得できないのでパン粉の立ち入り調査をすることにした。

  煎餅の深い缶にパン粉をストックしていた。残った食パンが出るとその都度干してミキサーにかけ、この缶に入れているという。カビが生えないようにちゃんと乾燥剤も入れているという。

  テーブルの上に折り込み広告を広げ、缶の中身をぶちまけた。

  バサバサッとパン粉が落ちてきて、そのあとジャラジャラッと光るものが落ちてきた。

  ん? ジャラジャラ?

  それ、乾燥剤じゃん!?

  缶の底を見ると、ビーズ状の乾燥剤がギッシリ入った紙の茶封筒があって、その端が少し破けていた。振るとシャラシャラと音を立てて中身の「ビーズ」が出てくる。

  パン粉は量が多いので少しの乾燥剤では足りないだろうと、お菓子の袋に入っている乾燥剤をためて、封を切って茶封筒に入れてたらしい。それがこぼれ出ていたのだ。  

  あの奥歯にガチッと硬いものは乾燥剤だったのだ。

  気持ち悪くなった。

  母は「あらあらあら」と笑ってごまかした。

  「大丈夫よぉ、ほら、ここにも?無害?です」って書いてあるじゃない」

  おかあさん、話を途中で端折らないでくれ、そこには「無害ですが食べられません」って書いてあるんだ。


  当分トンカツはもちろんのこと、パン粉を使う揚げ物は食べたくなかった。


  今はもうトンカツはまた大好物になったが、やっぱり最初の一口は、そろりそろりと噛んでしまう。


みなさん、乾燥剤にはよく「無害ですが食べられません」って書いてあるけどあれは間違いです。食べられます。


でも無害かどうかは未だによくわかりません。