ブルーノ・サンマルチノさんに会った夏 甲州街道徒歩紀行〈15〉

 猿橋をあとにして、地図どおりの場所にあったセブンイレブンの角を曲がり甲州街道を離れる。高速道路に下をくぐり「葛野川PRセンター」へ。東京電力の広報施設だ。このエリアにたくさんある水力発電所のことを消費者向けにPRするのが目的のもの。一歩中に入ると、数々の最新機器で目から耳から発電のことを教えてくれる。


もちろん、単にこの施設の見学に来たわけではない。事前に「葛野川水力発電所見学バスツアー」に申し込んでいたのだ。所要時間3時間でダムと地下500メートルの水力発電所を案内してくれるツアーでなんと無料!!


集合時間は13時。お昼ごはんを近辺で食べればちょうどいい時間だ。


ツアーは10数人。ほとんどが家族連れだ。ナビゲーターはセンター職員の斎藤さん。フランク永井似の中年のおじさんだ。助手は同じくセンター職員の黒部さん。黒部さんの案内でダム見学だなんて平仄が合いすぎている。


ダムまではバスで約40分。もちろん人造湖だ。車中で資料VTRを見せてもらったり工事の裏話を聞いたりしたので、自分自身のダムを見る目が変わったのを感じた。美しい・・・・。


そして発電所まではダムから20分。山をくりぬいた地下500メートルにある。普段はシャッターに閉ざされた暗いトンネルを5キロ進んだ先にある。まるでショッカーの秘密要塞である。ここからはヘルメットを借りて見学。


ここでこの葛野川水力発電所に代表される「揚水式発電所」について説明しよう。登場するのは高いところにある「上部ダム」、低いところにある「下部ダム」、そしてその中間にある「揚水式発電所」である。


この発電所が活躍するのは日中の電気使用のピーク時だ。電気使用のピーク時に上部ダムから下部ダムに水を流し落とす。その途中にある発電所の発電機が回転して電気を作り町に送られる。そして夜。世間の電気の使用は減る。その時に、夜間電力でさっきの発電機を逆回転させて下部ダムの水を上部ダムに汲み上げて満タンにしておき、明日に備えるのだ。そして翌日の日中のピーク時にまた水を下に落として発電する、その繰り返し。つまり同じ水を繰り返し使っている。温泉で言えば掛け流しじゃなくて循環方式ね。


地下500メートルの発電所はとてつもない広さと天井の高さを持つ。一つのダイナモが直径7、8メートルくらいある。壁にかけてある工具類も大きく、人間が使うとは思えない。これはきっと大工の鬼六が・・・(しつこい)。そしてもっと驚くのが、この巨大な地下宮殿が普段は無人だと言うことである。



そんなことを斎藤さんは身振り手振りのアクションも激しく熱っぽく語ってくれた。叩き上げの電力マンらしく、言葉の端々にダムへの愛情、発電への愛情が感じられて実に好感が持てる。仕事を愛している人というのは職種を問わず美しい。もはや斎藤さん自身が発電所のようだ。まさに人間発電所ブルーノ・サンマルチノ!! これでコマツの工場見学だったら人間起重機=ビッグ・ジョン・スタッド(明武谷も可)に会えるかもしれない。


☆☆本日の歩行約10キロ。自宅からここまでの歩行距離、約66.3キロメートル☆☆



発電所をぐんぐん進む斎藤さん。右側の赤いのが発電機のダイナモである。