もっとお世話になりたい人

紀尾井ホールの話題は続く。


会場の紀尾井小ホールは建物の5階にあり、エレベーターで昇る。


僕がエレベーターに乗りこんでドアが閉まりそうなタイミングのとき、早足でこちらに向かってくる白髪の紳士がいたので、ドアを手で押さえてちょっと待った。


乗り込んできた紳士は静かな声で「どうもすみません」と言って、ニコッと笑った。


あれ? この方、知ってる・・・。


えーーっと、多分偉い人。どこが出版社の会長さんだったんじゃないかな。多分そう。思い出せないけど。


だとすると(ってことはないけど)、丁重にしないと。


エレベーターが5階についた。紳士は先に僕を下ろしてくれようとしたがとんでもない。年長の方にそんなことをさせてはなんねぇ。ドアを押さえて先に下りていただいた。

紳士は、ニコッと笑って降りていった。また静かな声で「どうもすみません」と言いそえて。


いえいえとんでもない。いつもお世話になっています。


の言葉を飲み込みつつ目礼。


で、どなただっけ? どこの出版社だったかなぁ・・・。


と見送る僕と擦れ違った女性の二人連れ、「見て見て、あの方、元のN銀総裁じゃない?」


「N銀」と言っても「ニューギン」ではない。

 花の慶次〜愛   真田純勇士    龍神伝説 ヤマト戦記


福沢諭吉のブロマイドを発行している会社だ。


そうか、前のN銀総裁さんか。道理で見覚えがあるはず。新聞やテレビでこちらから一方的に見知っていたんだな。


あー、「いつもお世話になっています」なんて声に出さなくてよかった。


だってあんまりお世話になってないもん。もちろん、もっとお世話になりたいとは思っているんだけどね。


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