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そんなわけで石切橋の鰻の老舗「はし本」に行ったのである。
家族でやってる感じが気楽でいいね。着物を着たおばさんとかがお茶を持ってきたりするとどきどきしてしまう。その点、このお店は白衣を引っ掛けたお母さんなので気が置けない。
ここの近くの「石ばし」もミシュラン掲載の名店で料亭にも匹敵する格のお店なのだが、料理を運んでくれるのはTシャツ、ジーンズにエプロンのお姉さんたち。
実はこの界隈、母なる神田川流域には鰻屋さんが多い。飯田橋駅前には「志満金」という名店がある。
昔は鰻の養殖などが行われていた土地柄だそうで、僕が若いころには職場近くに「養鰻場」、「鰻問屋」などが残っていた。もちろん今はマンションやインテリジェントビルになっちゃったけどね。
「神田川」で「鰻」である。
神田明神下には「神田川」という老舗中の老舗がある。桂文楽(先代)の得意ネタ、ご一新後の東京を舞台にした「素人鰻」(行き先は鰻に聞いてくれ、ね)の主人公は「神田川の金(きん)」だ。
「金」と言えば、うちの近くには「金水」という鰻屋さんがあった。子供のころ、我が家で外食といえば「金水」さんだった。子供心に親父さんが春風亭柳朝に似ていると思っていた。
ある時、母に連れられて2階の座敷に行ったら衝立の向こうに父がいて…って、それじゃ「子別れ」である。
よく東京と大阪の鰻の割き方についての話がある。大阪では腹の側を割くけど、江戸は武士の町だから「腹切り」を嫌って背側を割くと。でも武士だって腹のほうが切りやすいから腹を切るだけですよね、背中には手が回らないしよく見えないし。って思っていた。
で、大阪で鰻を食べに行ったのだ。
そう、今回と同じメンバーだった。僕とツレと義妹の三人。宗右衛門町(ミナミは心斎橋近く)の老舗「ひし富」。
予約なしで渋い日本家屋のその店を訪ねたら、着物を着た年配の仲居さんが出てきてちょっと怪訝な顔をされたけど、上げてくれた(後で知ったが予約制だった)。
テーブル席ぐらいのつもりだったけど奥の10畳の座敷に通されてびびりながら鰻重をいただいた。腹開きか背開きかは見ただけではわからない。ちょっと見には東京と同じに見えるが、それを仲居さんに気安く聞くような世慣れはなかった。味はおいしかった。かなり緊張してたけど。
おいしかったね、背開きか腹開きかはわからなかったけどね、などといいながら店を出て振り返ると看板には、
関東流鰻料理 ひし富
とあった。なるほど違いがわからぬわけだ。
そんな話をしながら石切橋の「はし本」で鰻重を食べていたら、義妹も「覚えてる」と。
「写真撮ったもの。鰻重と記念写真。」
ああ、そうだったかもしれない。こんなお店に上がる機会もうないからってね。
うん、みんな20代だったよね、まだ。
そんなわけで関東と関西では鰻料理に違いがあるわけだが、鰻は日本だけの食べ物ではない。世界中で食べられている。中国でもヨーロッパでも。
神楽坂は国際都市で欧米人、中でもフランス人が多いことで知られている。
在日フランス人のルナール氏(仮名)に鰻重をご馳走したことがある。感想を問うと一言、
長すぎる。
<今日の一句>
鰻重や 思い出話は 長すぎて
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