隣町の老舗デパート(特に名を秘す)にて

最近、朝晩めっきり冷え込むようになってきた。伊達の薄着で風邪をひいてもつまらない、そろそろコートを出そうと思ってツマに言ったら、

「捨てたじゃん}

えっ、そうだっけ?

「うん、春にクリーニングに出そうと思ったら襟と袖が擦り切れてるからって」

あ、そうだった、思い出した。

・・・・・・・・・・・・

  そういうわけで買いに行くことにした。いざ、隣町の老舗デパートへ(特に名を秘す)。「諸般の事情」により、僕の洋服と言うものはどこの店でも売っているというものではない。たいていはその隣町の老舗デパート(特に名を秘す)の中にある、紳士服量販店に行く。

  気に入った商品があったので購入、会計をすますとレシートがピンク色だ。僕の怪訝な表情に気づいたか、店員さんが、「歳末売出しで一階ホールで福引をやっています」と教えてくれた。

  一階に降りるとやってるやってる。8角形をガラガラ回すと玉が出るヤツ。回転式抽選機だ。

  係のおにいさんにさっきのピンクのレシートを渡すと、
  「はい、28回どうぞ」


  この回転式抽選機、僕が子どもの頃は地元の商店街でも年末と夏にやっていた。母に抽選券をためておいてもらって、最終日に姉と半分ずつ回すのが楽しみだった。すでに僕が子どもの頃にはにスーパーが進出していたから商店街での買い物はそんなに多くなくて、3回まわせればいいところだった。

  それが・・・それが・・・今日は28回である。ああ、大人になってよかった・・・。

  いい大人が「財力」に物を言わせて、日暮里の駄菓子問屋でクジを箱ごと大人買いしているような心境である。


  賞品を見ると「特等 ハワイ旅行」とある。ああ、当たったら誰と行こう。ツマと行ったら留守中に子どもが干からびてしまう。かと言って他の人を誘うのも角が立つ。また「両親にプレゼント」なんてガラでもないことをするときっと凶事がおきるのでやめておこう。

  うん、家庭の平和のためにも2等3等のほうがいいな、などと思いながら回した。
  最初は黄色い玉。残念賞のポケットティッシュだ。良き哉良き哉、なにしろこちらにはまで27回ある。続けて回す。あれ? あれ? あれ? あれ? ・・・・・・・。

  受け皿の中には、黄色い海が広がっていく。うそでしょ? こんなに当たらないものなの? 係のお兄さんも困ったような顔をしている。
  最後の方で赤い玉が出た。コーヒー5杯分セット。僕よりもお兄さんの方がホッとした顔をしていた。

  
  戦果、ポケットティッシュ27個、 コーヒー5杯分セット1個。以上。
  右手に買ったばかりのコート、左手にポケットティッシュ27個とコーヒー5杯分セット1個が入った紙袋を持って駅に向かった。


  僕はもともとクジ運が強いほうではない。でも一言いいたい。


三多摩の中心である隣町の老舗デパート(特に名を秘す)の福引は当たらない」  と