山本幸久『笑う招き猫』(集英社)

今年のお正月に出た本だからかれこれ半年経っている。この日記でのレビューは新刊に限定しているのでどうしようかと思ったのだけど、あまりにも面白かったのでご紹介。

  一組の駆け出し女性漫才コンビを主人公にしたドタバタ青春小説だ。

  身長180センチのヒトミと、150センチ60キロのアカコはともに27歳、駆け出しの女漫才コンビ。大学時代からの付き合いだ。性格も境遇も正反対の二人は人気・実力ともにまだ駆け出し。でも直接、客と触れ合えるライブで天下を獲ろうという大望を持っている。

  そんな二人に訪れるいくつかのチャンス! そしていくつものピンチ! それらと格闘を通しての、二人の活躍と成長が小気味よく、そしてテンポよく描かれている。ストーリーがスピーディーに走っている感じだ。ついしつこく書き込みたくなるようなシーンも惜しげもなくポーン!っと切って、次の場面に転換させているところが潔くてよい。

  キャラがそれぞれ魅力的だ。繊細なヒトミの屈託は「そうだよな、そうだよな」と共感できるし、「いやなやつだなぁ」と思うと、ちゃんと豆タンク・ヒトミが重〜いパンチを敵の顔面にぶち込んでくれる。う〜ん、スカッとするなぁ。



  脇キャラもいい。もと銀座のナンバー1だったというアカコの祖母の超時空的包容力もイカしているし、子連れの二流芸人「乙」も情けなくも愛すべきキャラだ。そして最高にかっこいいのが巨漢のマネージャー・永吉。デブでダサくてカッコ悪いはずなのになぜかカッコよく感じられる。ははぁこの作者自身が巨漢なんだな、と思ったが写真を見たら小柄な方だった。

  あと特筆すべきは作中でアカコとヒトミが演じる漫才のネタだ。これが文章で読んでもやたら面白くて笑っちゃうの。これがつまらないと主人公に思いいれできないことをこの作者は良く知っていて、いい台本を書いている。このディティールの丁寧さの有無が全体仕上がりを左右するのだろうな。

  
  実はこれ、新人のデビュー作だ。昨年暮れの第16回小説すばる新人賞受賞作。実は僕は前々からこの「小説すばる新人賞」のファンなのだ。文学賞のファンというのも変な話だけど、ここの受賞作はみんな勢いがあっていい。若々しい爆発力を持っている。

  そして過去にもいい作家を多数デビューさせている。曰く花村萬月篠田節子、藤水名子、佐藤賢一村山由佳、等々。何年か前の『粗忽拳銃』(竹内真)もやたら面白かったなあ。

  次回作もぜひ読みたいと思える新人の登場だ。紹介が半年遅れになってしまったが、ぜひ多くの人に手に取っていただきたいと思う。

山本幸久『笑う招き猫』(集英社・1575円)

芸人の了見