節分の夜は18禁

今日のお話は18歳未満お断りなので、いないとは思うが18歳未満のお客様は一回休みです。


さて、今日は節分。恒例のことではあるが、肩衣をつけて豆を撒く芸能人や力士の姿がニュース映像で流れる日である。


我が地元、谷保天満宮にも、先月の国立演芸場のトリをつとめられた三笑亭可楽師匠や大江戸小粋組のメンバーでマジシャンの花島皆子先生、国立が誇る荒磯部屋の力士の皆さんが来られたようだ。街角の天神様のポスターで知った。


僕も本当は毎年行きたいのだが、なかなか行けずにいる。13年前、故・内海好江師匠やデビュー当時の宇梶剛士さんが来られたときの話は以前この日記に書いた。



前置きが長くなった。今日しようと思っているのは、それよりさらに昔。中学一年生の節分の夜の話だ。


その年、節分は日曜日だった。その頃、僕は日曜日は近所の塾に通っていた。まだ現役の大学生達がベンチャーで経営している小さな塾だった。たしか、まだ出来て2年目だった。



その日の塾の休み時間はやけに盛り上がっていた。



「知ってるか? 今晩、天満宮に片桐夕子がゲストで来るらしいぜ。掲示板のポスターに書いてあったぞ」


いま、胸がキュンとした人は45歳以上の男性であろう。



片桐夕子をご存知だろうか。そのころ人気絶頂だった日活ロマンポルノのトップスターだ。女子高生に扮した「夕子の白い胸」でスターダムにのし上がった翌年ぐらいだろうか。



もちろん当時は中学生だから、日活の映画館には入れない。でも盗み見る青年誌のグラビアに胸を焦がしていた。禁じられているだけに憧れは強かった。その片桐夕子が国立に来るというのである。我らの興奮しまいことか。


「行こうぜ行こうぜ」


「おう!! 5時に鳥居下に集合な!!」


と数人の男子でニキビ面を寄せ合って盛り上がっていたら、いつの間にか始業時間となっていた。


気づくと後ろには塾の先生(ていっても大学生)のリーダーで英語担当のK先生が呆れ顔で立っていた。



「ったく、おまえらはしょうがねぇなあ〜〜」



塾が終わり日も暮れて、僕は天神様まで約2キロを自転車で飛ばした。



鳥居の下には6,7人の塾仲間が大集合、と行きたいところだったが、集まったのは僕ともう一人だけだった。誰だったかは思い出せない。結局、本気で盛り上がってたのは俺らだけかよ、などと笑いあった。



裃をつけて天神様の拝殿から豆を撒く夕子さんは、それはもう美しかった。想像以上に小柄で可愛らしい人だった。



豆撒きを終えて鳥居下の駐車場に向かう夕子さんを、参集したおじさんやお兄さん達と一緒にゾロゾロと見送った。



車の後部座席に夕子さんが乗り込もうとした時に、小さな事件がおきた。どこがのおばさんが夕子さんに詰め寄って言ったのだ。



「ねえあなた、女優さんって言うけどどんな映画にでてんのよ」



ちょっと困ったような顔をしつつも、みんなにニコッと笑みを振りまきつつ車に乗る夕子さん。



「ねえちょっと、なんで黙ってんのよ!!」



なおも詰め寄るおばさん。夕子さんが乗った車は甲州街道を右に折れて東に向かっていった。



おばさんはブツブツ言いながら去って行った。なんかひどく後味が悪かった。



でも憧れの片桐夕子さんに会えて嬉しい気持ちの方が大きかった僕は、うきうきと家路についた。



塾の前を通りかかると、ちょうど夜の部の授業を終えたK先生が帰るところだった。


「ヤッホー、先生。片桐夕子、キレイだったすよー」



「なんだお前、本当に行ったのかよ? ったく、おまえばっかりは本当にしょうがねぇなあ〜〜」



とK先生には完全に呆れられてしまった。でもウキウキな僕には馬耳東風だったね。



(余談だが、このK先生はこの後ずいぶんと出世しなさって、この小さな塾を大層大きく育てられた。かの有名な国立学院予備校・ENA・学究社総帥である川端真一学院長の若き日の姿である)



うん、別に18禁にするほどの話じゃなかったな?