ナベゾ画伯こと、人気イラストレーター・渡辺和博さんの闘病記、肝臓ガンの闘病記である。
名著『金魂巻』で、世の中を「○金(マルキン)」「○ビ(マルビ)」、つまりお金を持っている人といない人にわける二分法で一世を風靡した渡辺さんは昨秋、肝臓ガンを患われて手術を受けた。この本はその体験記だ。書名の「キン・コン・ガン」はもちろん『金魂巻』のモジリ。
でもなんか普通の闘病記とは雰囲気が違う。告知を受けた自分を「パソコンが初期化された気分」と語ったり、手術室の指揮系統を雑誌の編集部に譬えたり・・・・。なんか妙に恬淡としている。
また、さすがイラストレーターの観察眼は確かで、病院内の人物や機械を実に細かく観察する。今どきの医師や看護士たちの気質や、不思議な見舞い客の行動を巧みに描き出し、最新式の医療器械のリース料を値踏みする。
この本の宣伝チラシだったかに、
「【注意書き】1、この本を読んでも、感動することはできません。」
と言う文言があった。
これはもちろん一種の韜晦で、僕は結構、感動した。特にエンディングの、
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これからは、ちょっと外にでてみようと思う。
こないだ知り合いの編集の人から電話があって、その人はウチのそばまで来てくれると言ってくれたけれど、外で会うことにした。「ぼくはソッチまで行きます」と言いました、きっぱりと。
やっぱり街にでないとイカン。
この先、病気とは長いつき合いになりそうだけれど、とりあえずはこんなところです。
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などは、読んでいて鼻の奥がツンとしてしまった。飄々ととぼけた風を装いながら、とても強い人なんだなあと感心した。
イラストも多く活字も15級と大きいのでとても読みやすい。
また。巻末の病室で描いたという水彩画がすごくイイ(カラーで掲載)。
書いたナベゾ画伯が凄い人であることは言うまでもないが、多分、この本を編集した人も相当腕のいい編集者だと思う。