長嶋有『パラレル』(文藝春秋)

芥川賞作品『猛スピードで母は』でお馴染みの著者、初の長編小説だ。

  帯に曰く「なべてこの世はラブとジョブ」。文中から採ったこのコピーの意味はよくわからないけど、長嶋的脱力ワールドの集大成とでもいうべき作品だ。僕がオビを書くとすれば、

「本邦初、脱力的離婚小説の傑作!!」

って感じかな。うん、やっぱり下手糞。

  物語は大学時代の同級生である二人の三十男、「僕」こと向井七郎と津田を中心に動く。

  「僕」は元・売れっ子ゲーム・デザイナー。でも離婚したばかりで心躍らず、仕事も開店休業状態。一方の津田はイケイケベンチャー社長。複数の女性との交際もいとわない鬼畜系。言ってみればこの小説は、一見全然似てないけど良く見ると「ダメ男」という名の一枚のコインの裏表のような二人の友情物語だ。

  この二人の友情を縦糸に、自分から浮気して離婚の原因を作りながらも常に電話をかけてコミュニケーションを求めてくる「僕」の元妻を横糸に、日々通うキャバクラのサオリや津田の借金を斜め糸(?)に、機を織るはずがこんがらがってグチャグチャに錯綜してしまった人間関係を軽妙に活写している。

  上で「離婚小説」って書いたから、ドロドロした愛憎劇を想像する人もあるかもしれないけど、これはちょっと違う。そんなドロドロや阿鼻叫喚が一段落したところから始まっているので妙に肩の力が抜けていて目線が高く、スカッとしている。でもその中でも端々に修羅場があったことを容易に想像させる。このへんが長嶋さんの巧いところだ。


  あと、僕が好きなのがキャバクラのシーン。キャバクラ嬢とのやりとりが実にリアリティがあり活き活きとしている。昭和40年代の山口瞳作品のバーでの年増の女給とのシーンを髣髴とさせる。

  また、バブル体験の描写も面白いなぁ。昭和一ケタの作家の方々が少年時代の戦争体験を描くように、ティーン・エイジャーの頃のバブル体験を小説に描く作家が現れる時代になったんだなぁと改めて驚かされる。

  あて、ネタバレになるので詳しくは書かないが、「僕」と津田の友情が一気に昇華するクライマックスには結構、ジーンとしてしまった。

長嶋有『パラレル』(文藝春秋・1500円)


パラレル