石井輝男監督とのお別れ会  承前

石井輝男監督とのお別れ会」の会場は赤坂プリンスホテル。別館のほうのクラシカルなボウルルーム。受付を済ませ、献花の長い列につく。多分、映画関係の方ばかりで知った顔はいない。ちょっと緊張する。

祭壇はいかにも石井監督らしい雰囲気。アンティーク家具やアンティークドール(監督の遺品だそうだ)が置かれ、床にはワインレッドの天鵞絨(ビロード)がうねっている。正面に大きな遺影。

献花を終え、監督の作品のポスターが展示されているコーナー(昨日の画像もそれ)で、見入っていたらポンっと肩を叩かれた。

石井作品の製作を手がけたワイズ出版の岡田社長だった。邦画関係の丁寧な研究書も多く手がけている。そして、北冬書房の主宰・高野慎三さんの姿も。元「ガロ」の編集者で、ガロでのつげ義春さんの作品の多くは高野さんが担当したものだ。その後独立して北冬書房を起こし、「夜行」を創刊し、数々の問題作を世に送り出した。

さらに、アナキストの久保隆さん、いやアナキストは職業じゃないな、評論家の久保隆さん、昨日紹介した「石井輝男映画魂」の著者で詩人の福間健二さん、映画監督の石川淳志さんなど馴染みの皆さんに会えて、ようやくリラックスできた。


会は「ねじ式(98)」の中の「やなぎ屋主人」で「やなぎ屋の娘」(いえ未がかってるほうです)を演じた女優・藤田むつみさんの司会で始まった。

東映岡田茂相談役のスピーチの面白いこと。戦後日本映画の裏面史に触れた興味深いものだった(あとで映画に詳しい人に聞いたら、事実ではなく「ネタ」らしいが)。

あと、スタッフ関係の方々とともに俳優では佐野史郎さん、砂塚秀夫さん、大木実さん(「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の明智小五郎役!)のスピーチ。高倉健さんは欠席だったがメッセージが寄せられた。

傑作だったのが砂塚さん。熱海に在住で、趣味と実益を兼ねて幇間をやっておられるそうだ。砂塚さんのヨイショで一杯やるなんて最高だろうな。


杉作J太郎さんと久し振りにお会いできた。杉作さんは石井作品では「ねじ式」の中の「もっきり屋の少女」でハッ!ドンドン!の村の酔客、「ゲンセンカン主人」の中の「池袋百点会」の業界紙記者の三流さん、といういい役を演じている。

僕を見るなり、

「蕃茄さん、太りましたネェ〜」

そして突然、バックに周り、僕のウエスト周りを抱え、

「やっぱり太りましたネェ〜」

女優の石川真希さんともかなり久し振り。監督問わず「つげ映画」すべてに出演しているすごい人だ。佐野史郎さんの奥さん。初代、というか先代の「ファブリーズ・ママ」。ファブリーズのCMで夫の背広にファブリーズを吹きかけるクールな表情がイカしていた。


会がお開きになり、「つげ組」、つまり 高野さん、岡田さんらご一行で赤坂見附まで歩き、お茶をすることになった。でも、水木薫さんの「ビールにしましょうよ」の一言でビールに。しかもファーストキッチンで!!

水木さんはかつて日活ロマンポルノで活躍した女優さんで、上智大出のインテリ女優で話題になった。石井作品では「ゲンセンカン主人」のゲンセンカンの女将、「ねじ式」ではシリツしてくれる「ねじ式女医」、という大役を演じてこられた。

海老サラダをつまみにビールを飲みながら石井監督の思い出話に花が咲いた。僕は門外漢だし一番つきあいも浅いので聞く一方だったけど、いつまでも聞いていたい面白い話ばかりだった。隣の席だった『スクリーンを横切った猫たち』の著者である映画評論家の千葉豹一郎さんは、『法律社会の歩き方』の著書を持つ法律家でもあった。いずれお世話になります(!?)。

なんか古い話ばっかりになっちゃったけど久し振りに会えて楽しかったね。うん、きっとカントクが会わせてくれたんだよ、なんて言いながら深夜の赤坂で散会した。