ブロード・ウェーに連れてって

前夜遅く熊本出張から帰り、朝寝を楽しんでいたら長女・花子(仮名・小4)に叩き起こされた。

「ブロード・ウェーに連れてって」

 な、何を言い出すんだ、確かに夏休みにどこにも連れて行かなかったが・・。 ブロード・ウェーって言やアメリカだぜぇ。

「違うよ、中野だよ。中野のブロード・ウェー」

もちろんわかってボケている。 先週の「アド街ック天国」が中野特集だったのだ。そこで上位にランキングされた「中野ブロードウェイセンター」にある数々の一風変わったお店の様子を見て、アニメ好き・マンガ好き・雑貨好きの花子は、

「ここはわたしの場所だ」

と思ったらしい。

 ご存じない方のためにご説明すると、JR中央線・中野駅北口から始まるアーケードを突き抜けた所に中野ブロードウェイセンターはある。地下一階から3階がショッピングモールで、それより上が高級マンションになっている。
 モールは、かつては普通の商店街だったが20年前、マンガ専門古書店の「まんだらけ」が創業して以来、類が共を呼ぶとでもいうのだろうか、サブカル系のおかしな店が増殖して、すっかり珍妙なテーストの、中央線サブカルチャーの聖地とでも言うべき場所になっている。

花子は「フィギュア」や「セル画」を見たいという。

 そういうわけで、猛暑の中、中央線に乗って中野に行ったのだ。

 ブロード・ウェーの空気は年々濃くなっている。ミニコミ専門書店の「トリオ」や「タコシェ」が出来て以来、さらに加速度を増しているように思える。

 娘がセル画やフィギュアを見ている間、ブロードウェーの中をぶらぶらと、番組に紹介された三葉虫の標本も売っているナイフ屋や、店員が蝶ネクタイをしている時計屋、軍用時計の専門店など冷やかした。
 セル画屋に戻ると、花子は「らんま1/2」のセル画を真剣な眼差しで見つめていた。

 「買って」

 買わない。

 館内を一通り見て回ったが、物陰で携帯電話を使って商談をしている人が何人もいた。古本業界で言う「セドリ師」らしい。中国語をあやつるセドリ師もいた。海外でも日本アニメの人気は高いというから、そちらとの商談だろう。かなり怪しい雰囲気だ。


 ブロードウェーの熱気から逃れ、「アド街ック天国」5位の南口・丸井本店へ行き、森永レストランでお茶をした。

 子どものころ家族で、丸井立川店最上階の森永レストランで食事をしたことを思い出した。あの頃、窓から見えた米軍基地の芝生の青さは、まさしく遠い異国を感じさせるものだった。