第一回 はなやぐらの会

女流義太夫をご存知だろうか?

 明治〜大正にかけてはそれこそ大変な人気だった。当時は「娘義太夫」といって今で言うアイドルのような熱狂振りだったそうだ。「どうする連」なんてのがいてね、今で言う「追っかけ」。人気の太夫の舞台を追いかけては、「どうするどうする」なんて身悶えしていたらしい。

 それから100年近く経った現在も、その芸能は連綿と継承されている。興行の形こそ変わり「どうする連」もいなくなったが、根強いファンを持ち、月に一度の国立演芸場での定期公演もつねにほぼ満席だ。

 今を去ること20年前、数学者への道を投げ打って、まったく畑違いの義太夫三味線の世界に飛び込んだ一人の女性がいた。以来、努力と苦労を積み重ねて、斯界に確固たる地位を築きつつある。

 現在の鶴澤寛也師匠である。この「蕃茄庵日録」にもたびたび登場する僕の20年来の悪友だ。ほんとは僕のほうが一年先輩なのだけど先輩らしい扱いはただの一度も受けたことはない。いや、別に文句を言っているわけだけど。

 さて、このたびデビュー20周年を機に、師匠は「はなやぐらの会」という定例リサイタルをスタートさせることとなった。

 第一回はこの4月に3日連続公演で行われる。以下要綱。
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★「はなやぐらの会」
義経千本桜「河連法眼館の段」
(賛助出演)竹本駒之助。(出演)鶴澤寛也・ツレ鶴澤駒清
4月9日(金)7時・4月10日(土)2時・4月11日(日)2時
各日定員30名(要予約)3000円 銀座よしみず・かくえホール
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 この会場の「よしみず」ってのがすごいのだ。京都の名旅館「吉水」の支店なんだけど、銀座のど真ん中に去年の春にオープンした和風旅館だ。その地下のホールが会場。ここは一見の価値、大有りだ。

 いかん、会場を先にほめちゃった。でも本当にいい会場を選んだな。

  賛助出演の太夫は大御所・竹本駒之助師匠。この方のド迫力と洒脱さは斯界のピカ一だ。豪放かつ繊細に登場キャラクターを明確に浮き彫りにする。

 もちろん寛也師匠も20年の集大成と大いに張り切っている。先日も神楽坂の居酒屋の電話番号を教えろとメールをくれた。

 寛也師匠ってどんな人? 高橋惠子(関根恵子)に似てると僕の母は言う。いいえ田中麗奈だとツマは言う。僕は浜田朱里に似ていると思う(誰も知らないかな)。


 おそらくこの日録をお読みの方のほとんどが義太夫を聞いたことないと思う。でもだまされたと思っていっぺん行ってみることをおすすめしたい。

 え? 義太夫は何を語っているかわからない。なぁに大丈夫、僕だってわかりはしない。でも頭で理解するよりもその旋律とリズムに身を委ねることを選んだ瞬間から、そりゃあもう桃源郷ですよ、あなた。DNAの奥深くに埋め込まれたものが一気に解き放たれる感じだ。僕などは1時間聞くと身体中の「コリ」がすっかりほぐれてしまうもの(いや、マジですって)。

 それにストーリー解説のペーパーも配られるはず(ですよね、寛也師匠)。義太夫協会は、水を出さないガンコで意地悪なカレー専門店とは違うのである。

 なお、会場は椅子なので正座が苦手な方も安心です(ですよね、寛也師匠)。義太夫に興味がある方、銀座の和風旅館に興味のある方、高橋惠子のファンの方、田中麗奈のファンの方、そしてしぶとく生き延びているであろう浜田朱里のファンの方は、ぜひ銀座にお集まりいただきたい。

 HPから師匠に直接申し込んでも良いし、僕にメールをいただいても、どちらでも結構であります。