吉川潮『芸人の了見』(河出書房新社)

 今、演芸や芸人さんのことを書かせたら右に出るもののいない吉川潮さんの最新刊だ。春風亭柳朝を描いた『江戸前の男』、音曲の柳家三亀松を描いた『浮かれ三亀松』など涙が出そうな傑作が数多くある稀代の書き手だ。

  この本は言ってみれば小品集かな。各紙誌に発表された文章を集めたものだが、ちょっと編集が変わっている。真打披露のお祝い状などという珍品も掲載されているのだ。珍しくて面白い。そうだ吉川さんは以前、演芸評論家をしておられたのだ。

  山藤章二さんとの対談がやたら面白い。昨今の芸人たちの体たらくを叱っているんだけど、その「叱り」がしっかり芸になっているところが流石だ。

  美濃部美津子さん(馬生、志ん朝の姉)へのインタビューも、志ん朝さんが亡くなるあたりのくだりを読んでいると、その情愛に泣けてくる。


  あと、僕が一番驚いたのは『小説ビートたけし』。1983年の作品だ。当然、単行本未収録作(だと思う)。

  実は僕はこの作品をよく覚えている。「小説現代」に掲載されたのを読んだのだ。とても印象に残っている作品で、1983年以降のたけしを方向性を予言するかのようなエンディングを今に至るまで、時々思い出すこともあったくらいだ。

  でも、あの小説が吉川さんの作品だとはこの本を読むまで知らなかった。その時は「ちょっとキザな文体だなぁ」とも思ったのだけど、今読むと全然違和感がない。もちろん古くない。

  なんとも嬉しい再会だった。

吉川潮著『芸人の了見』(河出書房新社・1600円)

芸人の了見