落研青春記  2 小利口の陥穽

(昨日の続き)

しまった。感動した話だけで、「洒落がきつい」という話や「明るく意地悪」な話をしていなかったね。


花見の宴席で、植竹先輩に前年の「清貧寄席(仮名)」の話を聞いている時、傍らには僕の他にもう一人、新入部員がいた。やけにフケ顔だった。聞けば、社会人経験を経て入学したと言う。道理で物腰も落ち着いている。


新入生同士なので僕もそれなりに会話をしたのであるが、一応、商家育ちの僕は基本的に腰が低い。特に長幼の序はわきまえているので、年上の人にはたとえ同学年であっても敬語を使う。


すると周りの先輩たちが、


「同級生で長い付き合いになるんだからタメ口でいけよ」


と囃し立てる。でも・・・・それができないのが習い性なのである。


種明かしをすると、そのフケ顔の新入部員、フケ顔なのは当たり前で実はOBだったのだ。OBにタメ口を使った新入部員がどうなるかは、火を見るより明らかである。それをネタに先輩衆に死ぬほど、というか泣くほどイジり倒されるのである。そのための仕込みでOBが新入部員のフリをしていたのである。ね、洒落がきついでしょ? 明るく意地悪でしょ?


そういうわけで、長幼の序をわきまえている僕は終始敬語で、その仕込には引っかからなかった。ああ、よかった、かと言えば逆である。


先輩衆はイジりたくてそういう仕掛けをしているのである。そこではまんまとトラップに嵌まって・・・・。あ、トラップとは「罠」のことである。音楽好きなトラップ一家のことではない。つまり罠に嵌まっていじられる後輩というのが可愛い後輩なのである。


そんなところで隙を見せない小利口な新入部員というのは実に可愛くないのである。小利口とはあくまで小利口であって利口ではない。いきなりスタートから誤ってしまったのである。

【小利口=こりこう】(形動) 目先のことは抜け目なくうまくやってのけるが、大局を見通す判断力に欠けているさま。[ 大辞林 提供:三省堂 ]


小才子が疎まれるのは三国志の楊修の時代から変わらない。って斎藤緑雨につづいて今度は楊修に準えるか、自分を?!


(つづく)