八段目 道行旅路の嫁入

banka-an2003-12-22


 ゴホンといえば龍角散、師走といえば忠臣蔵である。
  国立演芸場にて「女流義太夫演奏会」。出し物は「仮名手本忠臣蔵」のうち「八段目 道行旅路の嫁入」「六段目 勘平切腹の段」「七段目 祇園一力茶屋の段」。

  この日記にもしばしば登場する畏友・鶴澤寛也師匠にご招待いただいた。ただし「ペアでご招待」という条件つきだ。クリスマスデートに義太夫ってのも変わっていてよろしいねと思ったら、さらに条件がついた。「坂崎重盛さんと」ペアでのご招待である。
  寛也師匠はエッセイストの坂崎重盛さんのファンで、僕と坂崎さんが親しいのを知って、かねてより会いたがっていたのだ。ただなにぶんにも忙しい方なので予定が合わず半年もかかってしまった。

  6時半開演で寛也師匠の出番は一番最初。「八段目 道行旅路の嫁入」。太夫(語り)5人、三味線6人の計11人。寛也さんは今日は「シンを弾く」と言っていた。シンといってもサーベルを持って大暴れする人ではない。洋楽でいうコンサートマスターだ。洋楽と違って指揮者がいるわけではないので指揮者も兼ねている。指揮棒の代わりは何か。「ハッ!!」っていうような掛け声もあるけど、あとは「気」なんだろうな、客席にも伝わってくるもの。

  語っている内容というか歌詞というかシナリオというかは物語というかは、恥ずかしいんだけどまるでわからない。こういうところで教養の浅さが露呈する。でも音楽としては、実に耳に心に気持ちいい。心のコリをじんわりと揉みほぐしてくれる。気がつくと旋律にあわせて首を振っている自分がいる。

  三味線の調子を変える、つまりチューニングを変えるときがいいというのにも今日きづいた。色っぽいんだね。糸巻きっていうのかな、ギターでいうペグをキュッと回す時の仕草がいいのだ。非力(かどうかはわからないが)な女性が力をいれて糸巻きを締めあげるそのけなげで凛々しい姿がいいのだと思う。若い頃は気づかなかったんだけどね。視線がオヤジになったのかな。

  続いて竹本駒之助師匠の「六段目 勘平切腹の段」。僕の中での「女流義太夫」のイメージはこの駒之助師匠だ。あいかわらずのド迫力でぐいぐいと物語に引き込まれる。豪快な演出あり、しっとりと泣かせる場面あり、これこそ「至芸」というのだろう。そしてこの段は歌舞伎で何度も見てるのでよく聞き取れた。

  大切りは「七段目 祇園一力茶屋の段」。僕が忠臣蔵の中で一番好きな段だ。美貌の太夫・竹本越孝さんの平右衛門がよかった。剛毅木訥な好漢をダイナミックかつ愛嬌たっぷりに語ってくれた。

  終演後は楽屋口で寛也さんと待ち合わせして、師走の街に繰り出すのだが、続きはまた明日。